春とピアノに寄せて|春に聴きたい音楽とピアノの魅力

立春も過ぎ、明るい時間が長くなってきました。 まだ寒い日もありますが、日差しは春の訪れを感じさせてくれます。 今回は「春とピアノ」をテーマに、日本とヨーロッパにおける春にまつわる音楽やピアノ曲についてお話しします。
日本人と桜
新年度が始まり、新入生や新社会人となった方も多いのではないでしょうか。 連日の雨で入学式まで桜が持つか心配されましたが、何とか持ち堪えてくれましたね! 新たな門出を祝うかのように、美しく咲き誇っています。

日本人にとって桜は特別な存在です。 毎年誰かが「今年も桜が咲き始めた」と記録するため、1000年以上前の開花時期さえも遡れると言われています。 自然とともに生き、自然から学び、自然を慈しんできた日本人の感性が表れているように感じ、このエピソードが私はとても好きです。

春とピアノ、日本の音楽と童謡
日本には春をテーマにした可愛らしい曲がたくさんあります。 「さくら」「花」「春の小川」「早春賦」など、有名な童謡が多く、それぞれ春への憧れや春の訪れの喜びが歌われています。
私は特に「春の小川」が大好きでしたが、最近の小学校ではあまり歌われなくなったと聞きました。 「春の小川はさらさら流る(いくよ)」 この川の流れを“さらさら”と表現している部分がとても美しく、日本語の繊細さを感じさせてくれます。 童謡の歌詞を通して美しい日本語を知ることができるので、新しい曲も良いですが、古き良き歌に触れる機会も残してほしいと個人的には思います。
ちなみにこの童謡のモデルとなった川は、今の渋谷にあったそうです。 現在の渋谷からは想像できない事実に、驚かされました。
春とクラシック音楽
もちろん西洋にも春をテーマにしたクラシックの名曲がたくさんあります。 童謡についてはあまり詳しくないのですが、私の専門であるクラシック音楽なら、いくつも思い浮かびます。
ヨーロッパでは、長く厳しい冬を越えた後に訪れる春に対して、特別な思いがあるそうです。 「春への憧れ」や「春に寄せて」など、春を待ち侘びる気持ちを表現した作品もあれば、春そのもののイメージを描いた曲もあります。
ヨーロッパと日本の春の違い
ヴィヴァルディの《四季》より「春」は、日本の春のイメージとは少し違うと感じました。 優しい陽だまりのような曲調だけでなく、途中に激しい部分があり、これは春の嵐を表しているそうです。 ヨーロッパでは春に激しい嵐が来ることが多いと聞きました。
“歌曲王”と呼ばれたシューベルトも、「春」が題名に入る作品をいくつか残しています。 すぐに思い浮かぶのは『春の信仰(Frühlingsglaube Op.20-2 D686)』でしょうか。 ドイツリートでは、ピアノがその曲の風景や情景を説明する役割を担いますが、この曲のピアノの前奏からは、春の穏やかな一日が思い浮かびます。 歌詞の内容は喜びというよりも、どこか焦燥感や渇望感が感じられますが…。
私は個人的には「春に(Im Frühling 作品101-1、D882)」の方が印象に残っています。 幼い頃、ドイツリートのピアニストだった母がよく練習していたことを覚えているからかもしれません。 この前奏部分が大好きで、今でもこの時期になるとCDや動画で聴いています。 ただ、この曲も春を喜ぶというよりは、失恋の痛みを歌っている内容です。
ピアノソロの春の曲といえば、メンデルスゾーンの《無言歌集》より「春の歌 Op.62-6」でしょうか。 作曲者自身が名付けたわけではありませんが、冒頭に「春の歌のように」という指示があることからこの名前で呼ばれるようになりました。 そのイメージにぴったりの可愛らしいメロディと装飾音が特徴的です。
私にとっての春とピアノの曲

私にとって特別な春の曲は、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番です。 春になると、心の奥からそっと取り出したくなる大切な一曲です。
正確にはこのソナタは“春の曲”というわけではありません。 「スプリング・ソナタ(春のソナタ)」という呼び名も、ベートーヴェン自身が付けたものではなく、後に出版された楽譜に編集者が名付けたものです。 曲中にも春を示唆するような指示はありません。
それでも私はこの曲に春を感じます。 特に第1楽章は、ヴィヴァルディの話と重なるように、穏やかな陽射しと突然の風のようなコントラストが、まるでヨーロッパの春を描いているようです。
そしてこの曲は、私が初めて演奏したベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタであり、もう一つ特別な思い出があります。 それは、私の祖母がこの曲をとても気に入っていたということです。
祖母が旅立ったのは、ちょうど桜が散り終わる頃。 柔らかい光とそよ風が心地よい、春爛漫の美しい日でした。 祖母自身、春のように優しく可憐な人でした。 だからこの曲は、祖母と春をつなぐ、私にとってかけがえのないレパートリーの一つです。
春の終わりに寄せて|ピアノで心を整えるひととき
春は、別れと出会いが交差し、寒さと暖かさが入り混じる季節。 入学や進学や転職や独立など、新たな一歩を踏み出した方もいらっしゃるでしょう。 または環境が変わったことによって、少し気持ちに余裕が生まれたという方もいるかもしれません。
新しい環境に身を置くと、緊張と期待で心がいっぱいになりますね。 そんな時は、意識的に深く息を吐いてみてください。 吐いた分だけ丁寧に吸い込むことで、自律神経が整い、心も落ち着くと言われています。
そして、もしピアノに少しでも興味があれば、習い始めてみるのもおすすめです。 私は仕事として日々練習に取り組んでいますが、仕事とは関係のない曲を弾く時間が、実は一番のリフレッシュになることもあります。 専門外のソロピアノを弾き、柔らかな響きに包まれていると、いつのまにか頭の中が整理され、ふと良いアイディアが浮かんだり、迷っていたことに対して前向きな決断ができたりするのです。 まるで“音楽による瞑想”のような感覚です。
春は心がワクワクする反面、どこかザワザワと落ち着かないことも多い季節。 そんな時、街のピアノ教室で少しだけ鍵盤に触れてみるのも良いかもしれません。 春の音色とともに、心を整える時間をぜひ楽しんでみてくださいね。

ピアノのレッスンに興味がありますか?
詳しくはこちらのページをご覧ください:
私のピアノレッスン.
お問い合わせ
ご興味をお持ちいただきありがとうございます。
レッスンその他についてご質問等ありましたら、以下のフォームよりお気軽にご連絡ください。お待ちしております。