ヴァイオリンソナタ第10番: ベートーヴェンへの憧れと歓び
初めてベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第10番を聴いたのは、私の師匠である白井篤先生と素晴らしい室内楽ピアニストの大須賀恵里さんの演奏でした。私は泣きそうでした。師匠の演奏にはいつもうっとりしたり感動したり戒められたりします。しかし、この曲は何と表現したら良いのか…。懐かしさや切なさ、色々な感情が湧き出ました。特に最終楽章では涙を堪えることができませんでした。
もちろん、師匠と大須賀さんの演奏は本当に素晴らしかったです。しかしそれだけではありません。明らかに私の魂がこの曲に反応していました。このヴァイオリンソナタ第10番は、一見余計なものが削ぎ落とされてシンプルに見えます。しかし、実はとても複雑です。
前作から9年
シンプルと述べたのは、前作であるヴァイオリンソナタ第9番の難解さや力強さを踏まえてのことです。このヴァイオリンソナタ第10番は「クロイツェル」と呼ばれている第9番から9年後に作曲されました。ベートーヴェン42歳、中期から後期への過渡期にあったのでしょう。それはちょうど、交響曲第7番・第8番が作曲された頃です。
初演は私的な演奏会で、フランスの名ヴァイオリニストであるピエール・ロードと、ベートーヴェンの作曲の愛弟子でありパトロンでもあったルドルフ大公によって披露されました。前作であるクロイツェルとは明らかに違います。でも私にはよくわかりませんでした。なぜよくわからないのかもわかりませんでした。これが何なのか知りたくなり、私は第一番から弾いてみることにしました。
ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ全曲演奏にチャレンジ
そんな訳で、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタを順を追って勉強したくなりました。そうしたら何かわかるかな?と安易に考えたのがきっかけです。今はどんな理由だったにせよ、やってよかったと思います。もちろん師匠の所にもレッスンに通いました。
思い出のヴァイオリンソナタ
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタと聞いて思い浮かべるのは、先に述べたクロイツェルと「スプリング」の愛称で親しまれている第5番でしょう。実際、私はこの第5番に強い思い入れがあります。それについてはまた別の機会に記します。
第1番〜第3番の魅力
ベートーヴェンはヴァイオリンソナタ第1番〜第3番までを1797年から98年にかけて作曲しました。どうやら第2番が最初に作曲されたようです。第1番を最初に弾いたのは大学生の頃だったと記憶しています。ピアノとヴァイオリンによるユニゾンで始まる第一楽章は印象的でした。軽快な三楽章も演奏していて楽しいです。
第2番の第一楽章はヴァイオリンの伴奏にピアノが軽快に歌いながら始まります。細かい音がたくさんあり、練習曲にならないように注意した記憶があります。第3番は私にとって難儀でした。細かい音が多く、呂律が回らない感じの演奏にならないように、粒を揃えることに必死でした。それを経て第二楽章の牧歌的で美しいメロディも魅力的であり、第三楽章ではピアノが何かを提示してヴァイオリンが応えるように入ってくる感じがたまらなく好きでした。
4番と5番
実は第4番と有名な第5番は、当初同じ作品番号を所有していたらしいです。(現在は作品23,作品24となっています)どちらも1801年に出版されており、この翌年にあの有名な「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれることになります。第4番は短調の力強い一楽章から始まり、ユーモラスな二楽章を経て再び三楽章は短調に戻ります。より一層ベートーヴェンを感じる作品です。
第6番から第8番までの特徴
第6番の第二楽章の美しいこと!これは必聴です。第7番も短調の性格で、これはスケルツォを含む全4楽章からなる大作です。私はこの作品辺りから、オーケストレーションを感じずにはいられません。第8番は第7番と対照的と表現してもいいでしょうか。キラキラとしていて、愛らしいです。第一楽章の冒頭を“ドラえもんみたい”と表現している友人がいて、なるほどと思った記憶があります。
そしてクロイツェル
さて、そして第9番。演奏時間もボリュームがあり、もちろん内容も実に充実しています。この第9番が作曲された頃、ベートーヴェンは『交響曲第3番《英雄》』『ピアノ・ソナタ第21番《ワルトシュタイン》』『ピアノ・ソナタ第23番《熱情》』といった傑作を次々と生み出しています。
ある作品を勉強する時、同時期に作曲された他のジャンルについても調べます。そうすると、やはりエネルギーや思考などをより一層感じることができるのです。クロイツェルはその名の通り、当時の名ヴァイオリニスト“クロイツェル”に献呈されています。残念ながら彼が演奏することはなかったらしいです。
ベートーヴェンを追いかけて
“ヴァイオリンソナタ第10番にはベートーヴェンのヴァイオリンソナタが全部詰まっている”と昔大学の授業で教授が言っていたのを覚えています。全部詰まっているってなんだ?と当時の浅はかな私には理解できませんでした。今なら少しわかります。これはベートーヴェンのヴァイオリンソナタというジャンルの集大成であることは間違いないです。しかし、その言葉だけで形容するにはまだ足りません。この曲にはベートーヴェンが詰まっているのです。
結論
私はあと数年で彼がこのヴァイオリンソナタ第10を作曲した年齢に到達します。それにも関わらず、まだまだ中身は追いつけるような気がしません。全ての作品を何度も何度も弾いては研究し直してを繰り返すことで、少しは近づけるかもしれないと思っています。私はこれからも尊敬の念を持って憧れ続け、追いかけ続けるでしょう。いつか、“そうだよ。だからこうなってるんだよ”と心から納得した演奏ができるように、音楽にも日常生活にも喜びながら、両腕を広げて人生を歓迎していたいです。
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